11.特発性大腿骨頭壊死症
症状
特発性大腿骨頭壊死症の症状は、比較的急に始まる股関節痛と跛行です。長時間かけて進行する変形性股関節症と違って急性に発症しますので、初期には関節の変形による機能障害はあまり見られません。
原因
他の部位と同じように骨にも血液循環が必要です。骨には元々何ヶ所か血流障害を起こしやすい場所があります。大腿骨頭はその代表的な部位で、軟骨で被われた大腿骨頭が関節内に深く納まっているため血管が少なく、血流障害を起すと骨の壊死が引き起こされます。この壊死した範囲が大きいと体重を支えきれなくなり、潰れて痛みが出てきます。
古くは潜函病といって潜水夫が浮上してくるとき、血液中に生じた気泡が骨の中の血管に詰まり同様の症状が引き起こされることが知られていましたが、現在は原因がはっきりしていない場合“特発性”大腿骨頭壊死症と呼んでいます。
本邦では年間2000人程度の発症があることが知られていますが、男性ではアルコール多飲、女性ではステロイド(副腎皮質ホルモン)剤の服用に関連して生じることが分かっています。
予防と治療
お酒の飲みすぎやステロイド剤の使用に注意するということは考えられますが、骨は壊死していても潰れなければあまり症状を出さないと考えられます。従って股関節痛が出た時は既に陥没しているので、発症前に予防というわけにはいきません。ただ発症後の症状の進展は段階的なパターンを示します。
初期は比較的強い痛みがありますが、杖や局所の安静、投薬で治まる場合も多いのです。しかし骨壊死の範囲が広い場合や、ステロイドの使用などで骨粗鬆症が強い場合は、陥没変形に歯止めがかからない場合があります。
壊死域が広く変形が進行する可能性が高い場合には、自分の骨を使う手術として大腿骨内反骨切り術や大腿骨頭回転骨切り術という手術を行うことがあります。これらの手術の目的は、大腿骨の形状を変化させて荷重面に健常な関節面をもってくることで陥没変形の進行を抑えることです。
また年齢にもよりますが、既に変形が進行して自分の骨を温存する手術が困難と思われる場合は、人工股関節手術の適応となります。
※日本整形外科学会「整形外科シリーズ 17」から画像を引用しております。